PARCOプロデュース2018『THE CHILDREN チルドレン』感想・レポ・レビュー

感想・レビュー

PARCOプロデュース2018「THE CHILDREN チルドレン」

イギリス発・世界に広がる若き才能への賞賛

絶え間なく打ち寄せる波の音が聞こえる、イギリス東部のとある海辺のコテージが舞台です。
別荘として使われているのでしょうか。シンプルで居心地の良さそうなキッチンやカウチが、ほの暗いステージの奥に見てとれます。
しかし、開演と同時に波の音は高まり、セットが客席に向かって動き出すと、とてつもなく明るく取り乱したヘイゼル(高畑淳子)が、静寂を破って登場します。
続くローズ(若村麻由美)は、なんと出会い頭にヘイゼルが開けたドアとぶつかってしまった様子。…ローズは顔面の鼻血を拭いながら、ヘイゼルのすすめるお茶を飲むことに。
ヘイゼルと夫・ロビン(鶴見辰吾)は原子力発電所で技術者として働き、一人息子を育て、定年を迎えた後にここで生活しています。
数十年ぶりに再会したローズは、ヘイゼルにとって数少ない女性の同僚で後輩。ヘイゼルは、激変した日常生活のこまごまとしたことを、笑いを交えながら次々に語ります。
どんなに不自由でも、自分の健康的な生活のペースを守ろうと淡々と奮闘するヘイゼルに、ローズは感心しつつもあきれ顔。次第にぎこちなさをほどいてゆきます。ローズは、第一線を離れながらも、かつての同僚たちと連絡をとっている様子。
しかし、いったい何のために彼女は訪ねてきたのでしょうか。
ロビンの登場と共に、驚くべき事実が次第に明らかになります。
そして、コテージの外には、かつて彼らが共に設計から携わり、勤務した原子力発電所が、数週間前の地震と津波による被害でメルトダウンを起こしながらたたずんでいるのです…。


「THE CHILDREN チルドレン」観劇レビュー

東日本大震災をヒントに、1984年生まれの若手英国人劇作家、ルーシー・カークウッドが描いた「チルドレン」は、高い評価と共に世界各地で注目されている作品です。
2016年にロンドンのウエストエンドで初演されて以来、2017年にはブロードウェイへ進出、2018年のトニー賞最優秀演劇作品賞にノミネートされました。
さらにはメルボルン、トロントでも公演され、ついに日本でも…という、ちょっとしたブームの渦中ですが、プログラム・ノートに作者自身のこんなコメントが載っています。「(中略)…この芝居が他ならぬ、その日本で上演される日が来るとは夢にも思いませんでした。」劇中の震災を想起させる具体的な描写が、実際に被災し傷ついた日本人にとって失礼になるのではないかと、とても繊細に気遣い悩んだことが述べられています。
実際に先頃、被災した少女を主人公に描き2018年度上半期芥川賞候補になった小説が、作家が現地へ行かず想像だけで書かれたこと、参考文献の引用を伏して発表されたことなどに、内容の批評分析よりも先に“配慮不足”だとバッシングされる出来事がありました。
ドキュメンタリーやルポルタージュではない創作物の題材とするには、デリケートな状況だと言わざるを得ません。
本作は外国人作家によるものなので、同様な視線を向けられる難は逃れる面もありますが、むしろその距離感をこそ、作家本人は気にかけているのでしょう。
専門知識を備えた特定の人々をモデルにしつつも、普遍的でリアルな人々そのものを描いていることが、どうか日本の観客にも伝わるように、そして「…演劇の美しいところは、観客がその意味の半分を創るということです。…みなさまがみなさまご自身の意味をそこから創り出してくださるように…」と、捧げられています。

そんな作家の声に応えるかのように、日本での上演は、これ以上は望めないくらいのスタッフ、キャストによって制作されています。
古今の英国劇を知り抜いた翻訳家と演出家による、陰影あるウィットに富んだ、スピード感あふれる会話の応酬が次々に炸裂。
どんな境遇でも計算づくで健康オタクを貫こうとするヘイゼルの滑稽さ(…高畑淳子のヨガのポーズが美しい!)。
ロビンの、ろくでなしぶりを悪びれず表出する一方で、自己の哲学に従う知性を隠し持っているアンビバレンツな魅力。
ローズの多分にひねくれた言動が、じつは孤独な哀しみと乗り越えようとする意志に裏打ちされていること。それぞれに絡み合い、共有しあい、揺れあい、ぶつかり合う複雑な人間模様が、どこへ向かっていくのか。
存在感たっぷりに映し出してみせる俳優陣の強さとしなやかさに、圧倒され続ける1時間50分・休憩無し。また、一見するとよくある海辺のコテージの一室に見せかけ、緻密で意外な仕掛けがあるセット美術にも要注目です。

タイトルに込められた祈りは、ひとたび着手したら、世代を超えて向き合わねばならない原子力発電利用を例に、じつに同時代的問題に直面している世界中の人々に向けて、静かに照射されています。ぜひ一人でも多くの日本の観客が、それを劇場で受け取り力強く反射することができますよう…。


公演データ

2018年9月8日~9月9日
彩の国さいたま芸術劇場大ホール
2018年9月12日~9月26日
世田谷パブリックシアター
2018年9月29日~9月30日
穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
2018年10月2日~10月3日
サンケイホールブリーゼ
2018年10月10日
高知市文化プラザかるぽーと大ホール
2018年10月13日~10月14日
北九州芸術劇場 中劇場
2018年10月20日
富山県民会館
2018年10月30日
えずこホール(仙南芸術文化センター)

作:ルーシー・カークウッド
翻訳:小田島恒志
演出:栗山民也
美術:松井るみ
照明:小笠原純
音楽:国広和穀
音響:井上正弘
衣裳:西原梨恵

ヘイゼル:高畑淳子
ローズ:若村麻由美
ロビン:鶴見辰吾

ペンネーム:Ganz Pause
好きな舞台のジャンル:演劇、寄席、ジャズ&ロック
タイムマシンで観に行きたいもの:1900年のパリ万博

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