舞台『ジョーカー・ゲームⅡ』の感想・レポ・レビュー

感想・レビュー

欺かれることを期待する 舞台ジョーカー・ゲームⅡ

 去年の舞台化では2.5次元や特撮で人気を博した若手俳優の起用したことで話題となったジョーカー・ゲーム。
 今回は日本が舞台の『ダブルジョーカー』を主軸に、フランスの学生運動を題材にした小品『誤算』とナチスドイツ政権下の映画撮影所を舞台とした『ワルキューレ』の3つの物語が同時進行していく形を取られていました。


1) 死ぬな 殺すな 囚われるな D機関員の新たな試練

 前回に引き続き、D機関メンバーがⅡでも続投というニュースが流れたとき、前作を見たファンはもちろん、その評判を聞いた小説ファンやアニメファンがこぞってチケットを求めました。
 舞台ジョーカー・ゲームは、2.5次元の他の作品と同じようにアニメや原作のイメージを意識していますが、ストレートプレイと言ってもいい作品です。2.5次元ではアニメから抜け出たようなキャラクターを求められるのが常ですが、この舞台では俳優の役作りによってアニメ作品とは別の性格を持つキャラクターが生まれ、人気を博しています。
 今回はD機関のメンバー全員が二つの顔を持つスパイとして行動し、前作よりさらにパワーアップした世界が見られました。
 
 今回の座長として、『ダブルジョーカー』の主役だった実井役の木戸邑弥さん。アニメのイメージ、可愛い容姿とあざとさを持ったスパイを好演してくれました。特に自分本来の姿に変貌するときの顔は、何度見ても胸がすく思いがしました。花のある俳優さんが花を携えて出てきた姿には思わずどきっとします。
 『ダブルジョーカー』といえば忘れてはいけない人物、福本役の前田剛史さん。舞台を見ていて、今回はあまり目立たない人物だな、と思ったら、D機関的な手法で観客を騙してくれていました。もしかすると前田さんが一番スパイを演じるのが上手いのでは、と思ったくらいです。騙されたことが嬉しい、そんな気持ちになったのは初めてです。
 また今作で違った顔を見せてくれたのが結城中佐役の谷口賢志さんです。時空と空間を超えているスパイマスターはインテリジェンスの紳士然とした態度を保ちながら、お笑いのセンスも見せてくれる役を見事に演じられました。

 『誤算』の主役、波多野役の松本岳さん。『誤算』は他のものより中身がコンパクトにされて、正直もう少し時間が欲しいと思った作品です。フランスでおこったナチ反対の学生運動の中心人物アランとの短い交流の中、波多野の人間としての心の揺れが垣間見える場面には、驚きと感動すら覚えてしまいます。 
 アニメから抜け出たような、ということでは定評の甘利役の山本一慶さん。その飄々とした美男ぶりと加えて余裕のある大人の魅力がプラスされていました。『ワルキューレ』では日替わり幸村を演じていましたが、どこにいても目を引く人でした。映画スタッフでもモブでも自然に目が引きよせられる、舞台人としての魅力が溢れる俳優さんです。
 第一弾でまじめというイメージが強かった田崎役の奥谷知弘さんは、日を追うごとに舞台の上で成長を見せてくれました。
 成長と言えば、神永役の才川コージさんも同じです。神永のアニメや他の媒体のイメージの「女性好き」というイメージよりも自身の能力である運動能力を見せることで「D機関一の運動能力の持ち主」というキャラクターを作り出しました。そんな神永役の才川さんですが、可愛くてどこか憎めない若者やニヒルなスパイの顔を演じわけ、神永と言うキャラクターをさらに魅力的にしてくれました。
 そして、最後に前作では座長を演じた三好役の鈴木勝吾さん。第一弾で彼は都会的センスのある三好というスパイを演じ、今回も注目された役者さんです。今回は、連絡係をしているスパイと女性映画監督レニのスタッフに紛れる潜入スパイ、中里を演じました。鈴木さんは今回主役ではありませんが、座って新聞を読むシーン、立ち姿などが美しく、目を引く俳優さんです。レニの心を揺るがす役としてスパイなのに鮮やかな印象にさすが、と思わず拍手せざるをえません。
 
 

2)経験豊富な舞台俳優起用で深みある物語へ

 スパイが主人公ということは、スパイが潜入する先には必ず標的となる人物がいます。
 『ダブルジョーカー』では、二人のスパイが潜入する先、蟄居中の元駐英大使、白幡樹一郎(須間一也)と英国大使グラハム(和興)です。
 政界から遠ざかり、別荘に移り住みながら書生森下との触れ合いを楽しむ白幡は、実にほのぼのとした人物です。彼は森下が近くの料亭の仲居と逢引をしていることにも寛大で笑い飛ばして見送る余裕があり、大人物であることが見て取れます。でも森下と白幡が話すのはわずか2回だけ、台詞も数えるほどしかないのです。この堂々とした懐の大きさを感じるのは、役者の手腕と言うところでしょう。
 対比するように、英国大使グラハムがいます。蒲生とチェスをするこの紳士は、蒲生曰く小心者で、話しぶりや態度からプライドの高さが見て取れます。でも舞台のグラハムは、アニメや原作にない人物でした。いつもチェスの相手をする日本の青年が出征すると聞くと、最後の握手を交わし、感極まって抱擁します。当時の英国駐在大使ともなる男が日本人に対して抱擁するなんてまずありえないからです。でも、それをしたグラハムは、英国人が、日本人が、という枠組みではない、若い友人に対する憐憫の情を持つ人物だったことを知ります。蒲生も抱擁されたとき、一瞬驚きの表情をするところからおそらく予想外のことだったのでしょう。
 また、ベテラン俳優ならではの演技で驚かされたのは、『ワルキューレ』でのヒトラーの出現シーンでした。パンフレットにもキャスト表にもヒトラーの名前は載っていません。それは声もない顔もない存在として扱われているからでしょう。ただ、立って、反ナチ映画をただ黙って見つめるその姿は、異様に存在感がありその大きな影が不気味でした。 
この存在感は、熟練した俳優でないと出せない迫力に圧倒されてしまいました。

3)個性あふれる実在の人物を演じる中堅俳優たち

 『ワルキューレ』は『ダブルジョーカー』とは違う、戦争を背景とした空気の中にある第三帝国、ドイツの映画界を舞台とした作品です。ただ重苦しいだけでなく、映画界と言う華々しい世界を宣伝効果に使って、大戦へ導こうとする人間たちの欲が色濃く見られます。
 アメリカからドイツに流れてきた俳優逸見五郎(宮下雅也さん)は、ナチスを利用して映画作りと私利私欲を肥やそうとする男を、ゲッベルス(村田洋二郎さん)は、ナチ党でありながらインテリ軍人として、自分の好きな映画を通してナチス党のプロパガンダを率先させる男。ただ、怖いナチスのイメージだけではなく、日本人アナウンサーの口真似を披露するというコケティッシュな一面も見せ、それが返って人間らしい印象を受けます。
またゲッベルスに対抗するように出てきたゲーリング(岩澤晶範さん)は、映画をプロパガンダにするゲッベルスに強い敵対心を持ち、戦争を促すことで国民の感情をナチス党に向けようとするところが実に短絡的かつ、わかりやすい軍人思考のように見えました。
 主要キャスト唯一の女性、レニ(大湖せしるさん)はナチス党の宣伝映画を撮った監督として、時代の花だった彼女。舞台においては、人生の頂点を極めた自信あふれた成功者でありながら、目の前で殺された人々を思い出し苦しむ彼女に、弱い人間性を見せてくれました。
 

4)アンサンブルメンバーが演じる『誤算』『ワルキューレ』

 今作では、原作の中に出てくる主要人物の一部をアンサンブルメンバーが演じました。
『誤算』の波多野に影響を与える反ナチ運動家のアランとその仲間マリーとジャンです。D機関員以外、すべてアンサンブルメンバーで構成された舞台は短い時間のものの、臨場感あふれるアクション有、友情有の見ごたえのある場面が目白押し。その中で若さと葛藤の若者アランを演じた平野雅文さんとアランの信念に触れ心の中の何かが変わる瞬間を演じた波多野役の松本岳さんとの交流シーンはもう少し時間をとって見せてもらいたかったです。
 また『ワルキューレ』の場面での、逸見の愛人マルタ・ハウマンと反ナチの映画監督ランゲの役どころは原作でも重要で他のカンパニーではおそらくアンサンブルが演じるものではないでしょう。特に出番が少ないながらもランゲ役(杉山健一さん)は個性的な性格とその時代を匂わせる演技で記憶に残りました。
 

5)前代未聞の日替わりキャスト『ワルキューレ』の中のスパイ、雪村

 『ワルキューレ』の中でUFAに入り込むスパイ雪村幸一は、原作でもD機関の誰が雪村になったのかは書かれていません。これが日替わりで神永、甘利、田崎のD機関員が演じます。そして「映画好きな日本大使館の内装業者の青年
という基本設定から全く違う3人の雪村が生まれました。
 垢抜けないが素朴で犬のような可愛らしさを持った神永の雪村、メモ魔で逸見が嫉妬してしまう美青年である甘利の雪村、映画好きでちょっぴり天然お転婆娘のような田崎の雪村です。
毎回、誰が雪村を演じるかわからないまま公演が進んでいくので舞台の幕が上がるまで見ている方もハラハラです。確かに「人を欺く」をテーマにしているスパイ小説の舞台化だからこういうキャストでもありなのかもしれませんが、他の舞台ではまず受け入れられない趣向でしょう。 

6)必見!ふたりの化け物たちの激しいバトル

 
 舞台の物語の主軸『ダブルジョーカー』、D機関と風機関との攻防戦です。主演の木戸邑弥演じる白幡の書生、森島邦夫を風機関は、脅しながら丸め込み、白幡の動向を聞き出そうとする、風機関の風戸中佐役の合田雅吏と配下の蒲生次郎役の君沢ユウキの大人コンビは、若手俳優ばかりのD機関メンバーと比べて舞台上で際立って大きく見えます。
 今回の舞台で風機関の人気に驚きましたが、合田さん演じられる風戸中佐はニヒルな格好良さ、姿の良さ、潔さ良さにこんなに格好いいんだ、と改めて感動してしまいます。
 そして、蒲生次郎の君沢ユウキさん。端正な顔だけでなく、よく通る声に悠然とした態度、絵になる立ち姿は既存のジョーカー・ゲームファンを次々と魅了しました。人の良い青年かと思うと悪魔的な笑みを浮かべる彼は、まるで水を得た魚そのもので文字通りの当たり役といえるでしょう。 
   また蒲生に対して愛らしい姿と冷淡さを兼ね備えた実井役は木戸邑弥さんにとっても当たり役と言えます。特に、舞台上で森島からスパイ実井への変貌を遂げるシーンは実に爽快で、当たり役同士の鬼気迫る死闘シーンは必見の名場面となりました。 

7)時代背景を彩るマスゲーム 不穏な大戦の影

 今回の舞台では、3つの作品がジェットコースターのようなスピードで、同時間帯で編み込まれるように展開していく構成です。すべての舞台を
鏡やセットが動き回り、まるで人が迷路に入り込んだような錯覚をすると思ったら、時間も空間も飛び越えた、不思議かつ強烈な印象を与えた演出が、中盤に出てくるマスゲームです。
 観客席に突然現れる結城中佐。彼は、観客席を見渡し、そして舞台に目をやるとドイツ兵たちのマスゲームが始まります。同時に観客席は、熱狂するドイツ国民となり、臨場感を伴った演出でした。
 終盤、実井は自分たちが得た情報が日本側で使用されることがないことを知り、空を見上げてつぶやきます。
 「もはや世界大戦は避けられないか」と。
 この後の戦争でドイツや日本、世界がどうなったかを知る観客にとって、この言葉は重くのしかかり、それは今現代に生きる者への問いかけにも聞こえました。
  

次のジョーカー・ゲームⅢに期待

ジョーカー・ゲームⅡには、他の舞台では見られない実験的な取り組みが多かったことや、前作よりも何十倍にもパワーアップ俳優陣に驚かされるステージとなりました。
 ただ、3作品を同時進行で進むので、話が編み込まれるように作られており、場面がどんどん変わっていくので初めてみる人には疲れたり、追いつけなかったりすることがあるかもしれません。
ですが、すべての場面において俳優陣の演技や殺陣などで見どころが多く、エンターティメント作品として人に薦めたい舞台の一つです。
 大千秋楽のカーテンコールでカンパニーの座長、木戸邑弥さんは真摯に、力強く「ジョーカー・ゲームⅢが上演されることになることが今回の座長としての仕事です
と語られました。
 舞台の新しい可能性を見せてくれたジョーカー・ゲームⅡ。
 カーテンコールが終わった後も、場内に流れる最後のアナウンスが流れ終わるまで、多くの人が感謝と賞賛の拍手を送りました。
 拍手をしながら、ふと、次はどんなふうに彼らは欺いてくれるのか、と思いつつ、次回作が楽しみな舞台に出会えたことに感謝する、そんな舞台でした。


公演データ

ジョーカー・ゲームⅡ

原作:TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』/柳広司『ラスト・ワルツ』(角川文庫刊)
脚本・演出:西田大輔

2018年6月14日(木)~20日(水)
シアター1010
6月23日(土)~26日(火)
大阪メルパルクホール

キャスト

実井役: 木戸邑弥、甘利役: 山本一慶、田崎役:奥谷知弘、波多野役: 松本 岳
神永役:才川コージ、福本役: 前田剛史、三好役:鈴木勝吾 
結城中佐役:谷口賢志 

蒲生次郎役:君沢ユウキ、風戸中佐役:合田雅吏、逸見五郎役:宮下雄也
ヨーゼフ・ゲッベルス役:村田洋二郎、ヘルマン・ゲーリング役:岩澤晶範
レニ・リーフェンシュタール役 :大湖せしる
アーネスト・グラハム役:和興、白幡樹一郎役:須間一也

アンサンブル
伊藤あいみ、今井直人、書川勇輝、杉山健一、仲本詩菜、平野雅史、光永 蓮、米村秀人

ペンネーム: ロンドンぱんだ
好きな舞台のジャンル: ストレートプレイから2.5次元、オペラ、バレエ、宝塚歌劇、古典芸能を見ています。
ひとこと: 生まれたときから舞台好きです。

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