『日本文学盛衰史』感想・レポ・レビュー

感想・レビュー

青年団第79回公演「日本文学盛衰史」

漱石の髭はつけヒゲで、田山花袋は蒲団ならぬ座布団に顔を埋める…!?

舞台は、とある日本家屋のお座敷です。
まだ観客が席に着き終わらない開演前から、白い割烹着姿の女中さんが箱膳を運んできて並べています。
どの人達もなんとも陽気で、座布団を並べるのも鼻歌まじり。一体何の宴会が始まるのでしょう。
そのうちに、黒い紋付きで正装した男や女が入ってきて神妙な様子で座ります。1894年5月、25歳で首つり自殺をした文学者、北村透谷の通夜の席。
駆けつけたご近所の3人組が、口さがない噂話をしているところへ透谷と親しかった島崎藤村が現れ、訪れる弔問客を仕切ります。二葉亭四迷、森鴎外、樋口一葉、国木田独歩、田山花袋、星良、中江兆民、大矢正夫、幸徳秋水。
「我々の言葉はまだ生まれたばかり。国も言葉も文学も、まだまだ脆弱なのだ」と憂う、二葉亭四迷。日本を取り囲む諸国の趨勢を語る森鴎外のLINEに、夏目漱石から正岡子規を連れてもうすぐ行く、と入ってきたり、生前に透谷はツイッターで文学への情熱をつぶやいていた、と島崎藤村や田山花袋が披露したり。
樋口一葉が新作小説を「…お峰は無事に二両をATMでおろすことができました、ってはなし」と紹介、正岡子規が一同にベースボールをしようと誘えば、森鴎外が「日本文学、しまっていこう!」と声をあげます。
そして、第二場。1902年9月、結核で34歳で死んだ正岡子規の通夜の席を、詩と決別した島崎藤村と売れっ子AV監督になった田山花袋が取り仕切ります…。



『日本文学盛衰史』観劇レビュー

2001年に発表された高橋源一郎による小説『日本文学盛衰史』は、二葉亭四迷にはじまる明治時代の言文一致運動を、現代の日本文学の基点ととらえ、教科書とは真逆の鋭くポップなテイストで史実とフィクションを織り交ぜながらも、正調・近代日本文学史と言える大河小説です。
現在、中・高校生から大人まで巻き込んで人気のゲームやラノベ、アニメなどによる“文豪ブーム”が起きていますが、本書や、1987年に発表された関川夏央原作・谷口ジロー作画の漫画『「坊っちゃん」の時代』などが示すように、明治から昭和にかけての文学者達の素顔は、小説の内容は横へ置いても、いずれも非常に個性的で強烈なキャラクターのオンパレードです。また、関東大震災以前には、作家達が文京区を中心に集まるように暮らしていたこともあり、誰かが亡くなると、皆がお通夜には顔を合わせて無礼講で語らいあったというのも史実です。
演劇界で最も注目される劇作家・演出家の一人、平田オリザによって「日本文学盛衰史」が舞台化されるというニュースは、原作者を含め「いったいどうやって!?」と話題を呼びました。そして出現したのは、休憩無しでの四場全て、舞台は同一で通夜の宴席、という斬新な演出に凝縮された、今を生きる私たちに生き生きと響く群像劇です。平田オリザは現代口語による演劇理論の提唱者ですが、これまでに手がけてきた青年団の舞台では、時事ネタや流行語は一切使いませんでした。
しかし本公演では、本番直前まで書き換え続けられたほど、新鮮な世相や時事の風刺がテンポよく挿入されていて、劇場は笑いが絶えません。
また、一人の役者が何役も兼ね、女性が夏目漱石や宮沢賢治を演じるなど、これまでになかった方向性がいくつかあります。
「日本文学盛衰史」は明らかに、平田オリザおよび青年団の転換点となった公演と言えるでしょう。

第三場は1909年6月の二葉亭四迷、第四場は1916年12月の夏目漱石の通夜を、1943年まで生きる島崎藤村が仕切り続けます。
明治の文豪たち亡き後の日本と日本文学は、どうなっていくのでしょうか。
文学に造詣が深い人にも、そうでない人にとっても、生きて死ぬ、という繰り返しによって紡がれ続ける、私たち人間の不安と希望が描かれています。


公演データ

2018年6月7日(木)~7月9日(月)
吉祥寺シアター
原作:高橋源一郎 
作・演出:平田オリザ
舞台美術:杉山 至
照明:井坂 浩 西本 彩
音響:泉田雄太 櫻内憧海
衣裳:正金 彩

出演
山内健司 松田弘子 志賀廣太郎 永井秀樹 小林 智 兵藤公美  島田曜蔵 
能島瑞穂 大塚 洋 鈴木智香子 田原礼子 大竹 直 村井まどか 山本雅幸 
河村竜也 長野 海 堀 夏子 村田牧子 木引優子 小瀧万梨子 富田真喜 
緑川史絵 佐藤 滋 藤松祥子

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