オペラ『トスカ』感想・レポ・レビュー

感想・レビュー

華麗なるオペラの世界『トスカ』

 『トスカ』と言えばオペラを知らない人でも名前くらいは知っているという有名な作品です。18世紀のイタリア、ローマの歌姫トスカとその恋人の悲劇をドラマティックに歌い演じられるまさにラテンの恋の国ならではのお話です。
 映画の挿入歌に使われる有名な歌曲と共に華やかでゴージャスなセット、まるでイタリアの舞台そのままの姿が2018年7月21日土曜日、滋賀県立びわこホールで再現されました。

トスカ

デイタイムのオペラ観劇へようこそ 

 びわこホールの公演の良いところはその時間設定です。外国ではオペラは通常、夜の公演ですが、ここびわこホールでは土日公演、午後3時開演のデイタイムです。会社勤めの方なら土日のお休みを利用して午前はゆっくり、午後にびわこホールへという方もいらっしゃるでしょう。また遠方からおいでの方は土日を利用してびわこホールの公演ついでに京都散策もできるぴったりな立地です。(京都駅から大津駅までJRで20分、劇場までは大津駅から車で10分という立地です)
 
 ではオペラ公演のびわこホールはどんな感じなのか。同じ劇場でも演目によって観客が変わるのは当たり前ですが、今回のトスカは年配の女性、男性のグループの方、ご夫婦の姿が多く見られました。
 ホール内にはオペラ関連のDVDや解説書の販売コーナーと大津市の有名和菓子店さんの直販もあり、お土産もここで購入することができます。
 また休憩時間には軽食コーナーが設営され、ヨーロッパの劇場と同じくワインやシャンパンを味わえます。
 琵琶湖を見ながら優雅な幕間を楽しめるのもこの劇場の特色の一つといえるでしょう。

トスカ その時代背景

 『トスカ』は1800年のローマが舞台です。この時代、フランスでは革命が成功し、時代の寵児となったナポレオンは1798年にローマを占領し「ローマ共和国」を建国しました。しかしながらその年、ナポリ王国軍がフランス軍を追い出しましたが、カトリック一辺倒だったローマにフランス軍が掲げた「自由・平等・友愛」は若者たちや市民の心をとらえ、ナポレオン支持派が現れました。
 人民による政治を掲げるフランス軍の思想はカトリックを中心とした国づくりをしていたイタリアでは反逆とされ、ナポレオン支持派の弾圧が始まります。
 舞台である1800年はナポレオンがローマに再び進行していたとき、カトリック支持派イタリアの権力者側のスカルピアたちは激しく抵抗するナポレオン支持派を取り締まっていた時代なのです。
 

愛と裏切りのサスペンス

 イタリアンオペラの内容は主に三面記事である、と言われています。
 確かに時代背景やそのセットの豪華さに目を奪われてしまいますが、そこには今の時代にも共通する人間の愚かさ、愛おしさが見受けられます。
 だからこそ、現代にも『トスカ』は人々に愛されるオペラなのでしょう。

 わかりやすいストーリー展開
 恋人の浮気を疑った主人公が、横恋慕した警視総監にそそのかされたことで愛する人とその親友の命、さらに自らも殺人を犯してしまうという負のスパイラルの物語です
 見ていて滑稽ではありますが、嫉妬や裏切り、悪意というものがどれほど滑稽なものかを見せながら、それをさも壮大な物語にするのがオペラの醍醐味なのです。

ドラマティックに演じるオペラ歌手たち

 主人公のトスカの一幕目の鮮やかな青いドレス姿での登場には歌姫の貫禄があります。19世紀初めの成功した女性、当時のことを考えるとまだ職業婦人が少なかった中、自立した彼女は憧れの的だったのでしょう。それを見事に演じているキャサリン・ネーグルスタッドは恋する女性を可愛らしく、後半の狂気を悲劇的に見せてくれました。修道院で育ち、歌の才能で生きたトスカ。時の法王にも認められた彼女は、カトリック教徒として神へ歌を捧げていたといういきさつがあります。彼女の純粋さは修道院育ちから来ているのでしょう。キャサリン・ネーグルスタッドは彼女の思慮のたりなさ無さ、女の可愛さと強さを演じました。特に「神に生き、愛に生き」は圧巻です。
 その恋人カヴァラドオッシを演じるホルヘ・デ・レオンはまじめで真摯にトスカを愛し友人を助ける心優しい男を演じていました。画家でありながら、どこかお坊ちゃんっぽい雰囲気があるのは原作設定に彼が貴族であることが要因だからでしょう。彼の3幕目の「星は光りぬ」は、劇場を孤独な夜の世界に引き込まれました。
 
 そしてスカルピア役のクラウディオ・スグーラですが、まさに黒、といったイメージの歌手です。こちらはどこまでも紳士的でありながらトスカに言い寄るところが肉食獣的でいかにも狡猾な男を演じてくれていました。特に1幕目でトスカに嫉妬心を煽り、彼女の手にうやうやしくキスするシーンは、貴族的でありながら欲望たぎらせる男の目はぞっとします。はっとして手を引くトスカをじっと見るスカルピアの演技はどこまでも悪役でした。1幕目のスカルピアの欲望が謳われた後、続く「テ・デウム」という演出には思わず言葉がでませんでした。
 

絵の中に存在するヒロイン

 トスカが嫉妬する金髪碧眼の女性もとこの物語ではネックとなる存在です。Cカヴァラッティが目撃した美女に惹かれて教会からの依頼されたタナグラのマリアとしてその姿を描きます。
しかし絵のモデルはアンジェロッティの実の妹、アッタヴァンティ伯爵夫人。金髪碧眼の兄を真摯に想い、脱獄に手を貸す彼女はトスカとは正反対の人間と言えるでしょう。
 トスカと言う色濃い主人公の影にひっそりと現れる謎の美女。勝手にモデルにされ、勝手に嫉妬され、それが元で命を失う兄。
 トスカの物語を語るとき、彼女に翻弄された男たちが哀れだと言われますが、アッタヴァンティ伯爵夫人もまた間違いなくトスカの犠牲者です。

 ただし、ひと目を引く美貌がもしアッタヴァンティ伯爵夫人になければ、この物語は生まれずオペラも成立しないので、彼女もまた姿のないもう一人のヒロインともいえます。

ドラマを盛り上げるセットと照明

 オペラに必要不可欠なのはそのセットでしょう。特にトスカではポスターなどに出てくる教皇のミサは名場面の一つです。
 ローマ市内の聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会のうっすらと入る光の加減。
 それが昼間ではないことがわかります。脱獄囚アンジェロッティは自分の一族の礼拝堂に隠れているとゆっくりと光は明るくなり、アンジェロッティの親友で絵を依頼されていた画家カヴァラドッシが現れます。
 光の使い方で時間の経過を表し、なおかつセットの美しさに感動します。
 教会の石畳、セットに描かれたタナグラのマリアの絵、天井に描かれた天使たち、繊細に描かれた絵だけでなく、礼拝堂の柵や内部、1幕後半で見られる教会内部の見事な祭壇画に天井画にクーポラはまるでローマの舞台を持ってきたようで素晴らしくこれを見るだけでも一見の価値があります。

 2幕目は宮殿内のスカルピアの執務室です。ここは室内と言うことで光の加減はそんなにないだろうと思っていたのですが、どこか不穏な空気が流れているのが不思議です。その中で歌うトスカ。「歌に生き、愛に生き」は修道院で育ち、神のために歌を歌っていた彼女がどうしてこんな目に合うのかと絶望した時の歌。意味がわかると胸に詰まる想いがします。
 スカルピアを殺した後、儀式のように蝋燭を置くときは照明が暗くなり、その中で浮かぶトスカの姿が悲しくも美しく浮かび上がっていました。
 
 そして3幕目、こちらではサンタンジェロ城が現れます。寒々とした牢屋で偽物の処刑だと告げに行くトスカ、喜ぶカヴァロッティ。
 早朝のサンタンジェロの寒々しい光、カヴァロッティの死とトスカの投身自殺。何も言わない聖天使、それがかえって悲劇性を浮き彫りにして幕が下りました。
 舞台は、幕が下りた後、ブラボーの声と共にスタンディングオベーションと拍手の波。 
 何度も幕前に出てきてのご挨拶にそのたびに拍手喝采。素晴らしい歌唱とサービス精神に心打たれる舞台でした。

ぜひオペラ鑑賞へ

 関西は関東に比べて劇場に行く人が少ないと言われています。しかしながら音響が良く素晴らしい劇場は多くありますのでそれはもったいないです。
特にオペラなどは敷居が高いと言われますが、あらすじを読んでいたら意外と
わかりやすい話であることがわかっていただけるでしょう。
「でもオペラって高いよね」と言われる方もいらっしゃいますが、チケット代から考えるとそんなことはないでしょう。
 例えば、オペラは大体3時間、ワーグナーにいたっては6時間という長丁場です。
しかし、トスカを例にすると2時間55分(幕間休憩が2回入っての時間です)です。オペラのチケットはS席22000円からD席5000円(びわこホール2018年7月)です。オペラはセットや音響の素晴らしさ、生のオーケストラや歌が見ものです。
 服装もジーンズ以外でしたら大体OKですので、ちょっときれいな服を着ておでかけしてみるのはいかがでしょうか。新しい世界を味わいたい方にはぜひオペラ鑑賞をおすすめします。

公演データ

『トスカ』
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ
美 術:川口直次
衣 裳:ピエール・ルチアーノ・ガヴァッロッティ
照 明:奥畑康夫
再演演出:田口道子
舞台監督:斉藤美穂
合唱指揮:三澤洋史

出演:
トスカ: キャサリン・ネーグルスタッド
カヴァラドッシ: ホルヘ・デ・レオン
スカルピア: クラウディオ・スグーラ
アンジェロッティ: 久保田真澄
スポレッタ: 今尾 滋
シャルローネ: 大塚博章
堂守:志村文彦
看守:秋本 健
羊飼い:前川依子
合唱:新国立劇場合唱団 / びわ湖ホール声楽アンサンブル
児童合唱:大津児童合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ペンネーム: ロンドンぱんだ
好きな舞台のジャンル: ストレートプレイから2.5次元、オペラ、バレエ、宝塚歌劇、古典芸能を見ています。
ひとこと: 生まれたときから舞台好きです。

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